Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
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ISSN-L : 0287-5330
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The Short-term Effect of Open College for Adult Citizens
Naomi SugawaraKeiko NemotoRyoko HottaKanji FukuiYurika OkonogiYayoi ImaiKayo OmuraMika YokotaTizuko Tsutsumi
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2018 Volume 38 Pages 292-298

Details
Abstract

目的:成人市民を対象として健康的なライフスタイルの獲得を目指した公開講座を実施し,参加者の健康に対する意識や行動変容に及ぼす短期的な効果を検証した.

方法:対照群を置かない前後比較デザインとした.公募により募った35名を対象として,週1回の公開講座を5週連続で実施した.効果指標には日本語版健康増進ライフスタイルプロフィールII(JLV-HPLP II),健康関連QOL(SF-8)を用い,介入の前後3時点において質問紙調査を行った.

結果:研究協力に同意が得られた32名を分析対象とした.一般線形混合モデルを用いて,一元配置の反復測定による分散分析を行った結果,全講座終了直後の時点において有意差が認められた下位尺度項目は,JLV-HPLP IIの総合,下位尺度の健康意識,精神的成長,身体運動,栄養,SF-8の全体的健康感であった.

結論:5週連続で実施した公開講座は,参加者の健康に対する意識と健康的な行動変容に対して短期的な効果をもたらすことが示唆された.

Ⅰ. 緒言

少子高齢化により人口減少が進む我が国では,すべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を構築する方策の一つとして,健康寿命の延伸が重要課題として掲げられている(厚生労働省,2016).健やかな老いを表す概念としてサクセスフル・エイジングが用いられているが,これは,加齢による衰退に自分なりに適応し,心と身体の両面が健やかで満足のできる状態にあることを意味する(谷井,2001小田,1993).加齢による心理的・身体的な変化は生活習慣に影響を受けやすいことから,サクセスフル・エイジングを実現するための方法として,健康的な生活習慣を維持することは有効であり,全世代にとっての課題であるといえる.

筆者らが本研究実施時に所属していた大学は,活力のある個性豊かな地域社会の形成・発展および学術の振興に寄与することを目的にA市と包括連携協定を締結しており,協定における活動の一環として大学での公開講座(以下,講座と記す)を毎年開催している.講座の対象やテーマはその年の担当者に委ねられているが,筆者らが企画を担当した年は市民が健やかに老いるプロセスを支える看護の視点からテーマを探求した.A市は高齢化率が22.8%,65歳健康寿命が男性17.0年,女性19.7年であり,自立した高齢者が多い地域といえる.しかし,人口動向の将来推計においては,全国の傾向と同様に高齢者人口および生活習慣病罹患者数の増加が予想されており,健康寿命の延伸を目指して,地域と共に一人ひとりが健康づくりを行うことをヘルスプランの基本方針として掲げている.そこで,市が掲げる基本方針への貢献を目指して,これまでの生活習慣を見直し,改善へ向けた行動がとれるよう動機づけの強化を目指した全5回の講座を企画した.一般的に公開講座は市民の健康増進や生きがいづくりの一環として企画されることが多いが,報告の内容は活動紹介(武井,2011徳田ら,2009)や単回開催により得られた効果(西郡ら,2017)が中心であり,連続開催した場合に得られた効果やその経時的な変化について検証が進んでいるとはいい難い.

そこで,成人市民を対象として健康的なライフスタイルの獲得を目指して実施した講座が,参加者の健康に対する意識と健康行動の変容に及ぼす短期的な効果を検証することを目的として本研究を実施した.既に到来している人口の高齢化を社会全体で乗り切り,健やかな社会を実現するためには,市民を対象とした健康増進活動の普及は不可欠であり,そのような活動の効果を検証していくことで,健康増進活動の普及に寄与することが期待される.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

対照群を置かない前後比較研究とした.全5回の講座を実施し,講座開始時,全講座受講直後,講座受講後1か月の3時点において参加者に対して質問紙調査を行い公開講座の効果を評価した.

2. 研究対象者および選定の手続き

講座の参加者に対して研究の趣旨および協力の依頼について説明し,署名にて同意が得られた者を調査対象とした.講座参加の条件はA市内在住又は在勤の成人であり,全日程の参加が可能な者であった.講座の情報は市の広報誌に掲載し参加者を募った.

3. 講座の内容

本講座の内容を表1に示した.「健やかに老いる」というテーマのもと5回シリーズの講座を毎週実施した.各回の所要時間は90分2回を原則とした.

表1 公開講座の内容
テーマ 内容 形式 展開方法 時間(分)
1 “健やかに老いる”とは ・オリエンテーション
・健やかに老いるとは
講義 ・動機づけ
・知識の提供
90
・心と体の健康チェック(身体計測)
・生活を見直すためにできること*
演習 ・生活習慣の振り返り ・課題の明確化
・行動目標の設定・共有
90
2 健口で健康に ・目標達成の振り返り**
・食生活の振り返り
・加齢による変化が食事に及ぼす影響
講義・演習 ・動機づけ
・課題の明確化
・知識の提供
90
・加齢による変化が食べる仕組みに及ぼす影響
・健やかに老いるための健口づくり
講義・演習 ・知識の提供
・遂行行動の体験
90
3 ロコモ・フレイル予防 ・運動習慣の振り返り
・ロコモ・フレイルとは
講義 ・動機づけ ・課題の明確化
・知識の提供
90
・健やかに老いるための体づくり(オリエンテーリング) 演習 ・遂行行動の体験 90
4 認知症予防 ・認知症の方々が生きている世界とは 講義 ・知識の提供・動機づけ 90
・認知症を予防するためにできること
・認知症との付き合い方とは
講義・演習 ・遂行行動の体験 90
5 終活 ・終活とは 講義 ・動機づけ ・知識の提供 90
・終活を通して,人生をより自分らしく健やかに 演習 ・課題の明確化 ・遂行行動の体験 60
・全体のまとめ ・動機づけの強化 ・行動の定着強化 30

* 各回の終了時に実施した. ** 各回の開始時に実施した.

各回のテーマは,加齢に伴う心理的・身体的な機能変化に影響を受けやすい生活習慣に着目して設定した.理論的枠組みには行動変容のステージモデル(Prochaska & Velicer, 1997)を用いた.本講座の参加者は公募により募っているため,既に健康に関心があり行動を起こす意思がある関心期に該当する者が多いと予測した.そこで,講座を実施する際には参加者の健康的な生活習慣への関心がさらに高まり,行動変容につながる動機づけを強化することを目指して介入を行った.動機づけの強化には自己効力感(Bandura, 1977)の強化が有用であるため(Prochaska & Velicer, 1997),全ての回は知識を習得するための講義とスキルを習得するための演習を組み合わせて展開した.講義では健康的な生活習慣を実践することにより得られる利益に対して理解を深めること,演習では実技体験の場を提供し成功体験を得ることをねらいとした.さらに,演習には参加者の交流を促進する活動を取り入れ,ソーシャルサポートの獲得を支援した.毎回の講座終了時には,次回講座までの1週間で達成可能な健康づくりに関する行動目標を立案してもらい,翌週に達成状況を共有した.各講座の講師および進行のアシスタントは,著者全員が分担して行った.

4. データ収集方法

質問紙調査は2017年6月から8月にかけて実施した.実施のタイミングは,講座開始時,全講座受講直後,講座受講後1か月の3時点とした.講座開始時と受講直後は,講座の会場で記入してもらいその場で回収した.受講後1か月時点の調査は,個別の郵送法とした.全ての調査は記名式とし,各時点において回収した回答は対象者毎に同一のIDを付して匿名化のうえ管理した.

5. 調査内容

1) 対象特性

性別,年齢,健康状態に関する内容

2) 公開講座の効果に関する指標

公開講座の効果に関する予測に基づき,生活習慣,主観的健康感に関する以下の尺度を使用した.

(1) 日本語版健康増進ライフスタイルプロフィール(JLV-HPLP II)

Health-Promotion-Lifestyle Profile II(Walker et al., 1987)の日本語版尺度(魏ら,2000)である.本尺度は,健康的なライフスタイルを6因子構造(健康意識,精神成長,身体運動,人間関係,栄養,ストレス管理)52項目で捉えており,全項目の平均値(総合スコア)と下位尺度毎の平均点の両方が利用可能である.回答は,4件法(得点範囲1~4点)であり,得点が高いほど健康的であることを示す.尺度開発時の因子構造は,日本語版も原版と同様であり,信頼性と妥当性が確認されている.尺度開発時の総合スコアおよび下位尺度得点の平均値は日本人の平均的な構造として活用可能である.本尺度は開発者の許可を得て使用した.

(2) SF-8

SF-8(福原・鈴鴨,20042005)は,健康関連QOLを包括的に測定する尺度であり,8下位尺度から構成されている.測定した尺度得点は専用のスコアリングプログラムを使用し,国民標準値が50になるように0~100点の範囲に変換される.各下位尺度の因子構造を基に身体的側面,精神的側面を表すサマリースコアを算出可能である.得点が高いほどQOLが良好であることを意味する.本尺度は,尺度を管理する会社へ使用登録後,ライセンス契約を結び使用した.

6. 分析方法

一元配置の混合モデルによる経時測定データの分析を行い,欠測値がある経時測定データであっても全て解析の対象とした.多重比較検定においては,Bonferroni法による修正を行った.全ての検定において有意水準はp < .05とした.解析にはSPSS for windows ver. 24を使用した.

7. 倫理的配慮

対象者へは,研究の趣旨,自由意思による参加および中断の保証,データの匿名化および個人情報保護の保証について口頭および文書で説明し,調査に協力が得られる場合は署名により同意を得た.本研究は目白大学研究倫理審査委員会の承認を得ており,同会の規定および作成した研究計画書を遵守して実施した(承認番号17-012).

Ⅲ. 結果

講座への参加登録者は35名であり,全て参加した者が25名(71.4%),1回欠席した者が9名(25.7%),3回欠席した者が1名(2.9%)であった.欠席理由は自己都合による予定であり,全て事前に届け出があった.研究協力に同意し,かつ調査票に回答した人数は,講座開始時32名,受講直後30名,受講後1か月16名であり,講座開始時に回答が得られた32名を分析対象とした.

1. 講座開始時における対象者の特徴

平均年齢(±SD)は70.2 ± 6.8歳であり,年代構成は50歳代が3名(9.4%),60歳代が10名(31.3%),70歳代が17名(53.1%),80歳代が2名(6.2%)であった.性別は男性11名(34.4%),女性21名(65.6%)であった.32名のうち,治療中の慢性疾患が「あり」と回答した者は12名(37.5%)であり,全員が服薬治療を行っていた.服用中の薬は,複数回答で高血圧治療薬12名,脂質異常症治療薬6名,抗不整脈治療薬3名,血糖降下薬2名であった.

講座開始時における効果指標の測定結果を表2に示す.JLV-HPLP IIの総合スコア(以下,総合と記す)および下位尺度得点の平均値(95%信頼区間)は,総合=2.9(2.8~3.0),健康意識=2.6(2.5~2.8),精神的成長=2.9(2.8~3.1),身体運動=2.5(2.3~2.7),人間関係=3.1(2.9~3.3),栄養=3.1(3.0~3.2),ストレス管理=3.1(3.0~3.3)であった.SF-8の下位尺度得点の平均値(95%信頼区間)は,身体機能(PF)=46.0(42.9~49.2),日常役割機能:身体(RP)=45.4(42.5~48.4),身体の痛み(BP)=48.8(46.6~51.6),全体的健康感(GH)=50.5(48.6~52.4),活力(VT)=49.9(47.5~52.3),社会生活機能(SF)=49.4(46.9~51.8),日常役割機能:精神(RE)=48.0(45.9~50.2),心の健康(MH)=48.5(46.1~50.9),身体的サマリースコア(PCS)=46.1(43.3~49.0),精神的サマリースコア(MCS)=48.8(46.5~51.0)であった.

表2 尺度得点の経時的変化 n = 32a)
講座開始時(n = 32) 受講直後(n = 30) 受講後1か月(n = 16) F値c) pc)
平均b) 標準誤差b) 95%信頼区間b) 平均b) 標準誤差b) 95%信頼区間b) 平均b) 標準誤差b) 95%信頼区間b)
下限 上限 下限 上限 下限 上限
JLV-HPLP IId)
総合 2.9 0.06 2.8 3.0 3.0 0.05 2.9 3.1 2.9 0.06 2.8 3.0 6.22 .004
健康意識 2.6 0.09 2.5 2.8 2.8 0.09 2.6 3.0 2.7 0.10 2.5 2.9 4.43 .018
精神的成長 2.9 0.08 2.8 3.1 3.1 0.08 2.9 3.2 2.8 0.09 2.6 3.0 6.42 .003
身体運動 2.5 0.10 2.3 2.7 2.7 0.10 2.5 2.9 2.7 0.11 2.5 2.9 12.09 .001
人間関係 3.1 0.09 2.9 3.3 3.2 0.09 3.0 3.3 3.0 0.10 2.8 3.2 1.14 .329
栄養 3.1 0.06 3.0 3.2 3.3 0.06 3.1 3.4 3.2 0.07 3.1 3.4 3.58 .036
ストレス管理 3.1 0.07 3.0 3.3 3.1 0.07 3.0 3.2 3.0 0.08 2.9 3.2 1.71 .193
SF-8d)e)
PCS 46.1 1.4 43.3 49.0 47.8 1.5 44.8 50.9 46.7 1.9 42.9 50.5 0.58 .565
PF 46.0 1.6 42.9 49.2 47.6 1.7 44.8 51.0 46.5 2.2 42.2 50.8 0.35 .707
RP 45.4 1.5 42.5 48.4 48.3 1.6 45.1 51.4 47.6 2.0 43.6 51.5 1.53 .227
BP 48.8 1.4 46.6 51.6 49.5 1.4 46.6 52.4 49.7 1.6 46.5 52.9 0.34 .711
GH 50.5 1.0 48.6 52.4 52.7 1.0 50.7 54.8 48.4 1.3 45.9 50.9 5.89 .005
MCS 48.8 1.1 46.5 51.0 50.0 1.2 47.6 52.3 47.9 1.5 44.9 51.0 0.77 .468
VT 49.9 1.2 47.5 52.3 50.8 1.2 48.4 53.3 49.3 1.4 46.4 52.1 0.85 .436
SF 49.4 1.2 46.9 51.8 50.1 1.3 47.6 52.7 47.3 1.7 43.9 50.7 0.99 .379
RE 48.0 1.1 45.9 50.2 49.6 1.1 47.4 51.9 47.6 1.4 44.8 50.3 1.51 .231
MH 48.5 1.2 46.1 50.9 49.8 1.2 47.3 52.3 48.5 1.5 45.5 51.6 0.68 .512

a)全対象者数,b)推定周辺平均値に基づく値,c)一般線形混合モデルを用いた一元配置の反復測定による分散分析

d)尺度得点範囲:JLV-HPLP II(1–4点),SF-8(1–100点)

e)下位尺度の概念は以下の通り:PCS(身体的サマリースコア),PF(身体機能),RP(日常役割機能:身体),BP(身体の痛み),GH(全体的健康感),MCS(精神的サマリースコア),VT(活力),SF(社会生活機能),RE(日常役割機能:精神),MH(心の健康)

2. 介入効果に関する指標の変化および変化量の比較

尺度得点の経時的な変化を解析した結果を表2に示した.測定した3時点において平均値の分散に有意差が認められた評価指標およびp値は,JLV-HPLP IIの総合(p = .004),健康意識(p = .018),精神的成長(p = .003),身体運動(p = .001),栄養(p = .036),SF-8のGH(p = .005)であった.他の下位尺度項目については,有意差は認められなかった.

効果指標を測定した3時点において,下位尺度得点の平均値の変化量を比較した結果を表3に示した.講座開始時と受講直後の2時点における変化量(受講直後の平均下位尺度得点-講座開始時の平均下位尺度得点)比較において有意差が認められた項目の変化量とp値は,JLV-HPLP IIの総合=0.12(p = .002),健康意識=0.18(p = .005),精神的成長=0.12(p = .048),身体運動=0.28(p = .001),栄養=0.13(p = .012),SF-8のGH = 2.3(p = .034)であり,すべて受講直後の下位尺度得点の平均値が向上していた.受講直後と受講後1か月の2時点における変化量(受講後1か月の平均下位尺度得点-受講直後の平均下位尺度得点)の比較において有意差が認められた項目の変化量とp値は,JLV-HPLP IIの総合=–0.10(p = .028),精神的成長=–0.26(p = .001),SF-8のGH = –4.3(p = .002)であり,全て受講後1か月の回尺度得点の平均値が低下していた.講座開始時と受講後1か月の2時点における変化量(受講後1か月の平均下位尺度得点-講座開始時の平均下位尺度得点)の比較では,JLV-HPLP IIの身体運動=0.24(p = .002)のみに有意差が認められ,受講後1か月時点においても講座開始時よりも高い値を示していた.

表3 尺度得点の変化量の比較 n = 32a)
受講直後-講座開始時 pc) 受講後1か月-受講直後 pc) 受講後1か月-講座開始時 pc)
平均値の差b) 標準誤差b) 95%信頼区間b) 平均値の差b) 標準誤差b) 95%信頼区間b) 平均値の差b) 標準誤差b) 95%信頼区間b)
下限 上限 下限 上限 下限 上限
JLV-HPLP II
総合 0.12 0.03 0.05 0.19 .002 –0.10 0.04 –0.19 –0.10 .028 0.02 0.04 –0.07 0.11 .713
健康意識 0.18 0.06 0.06 0.30 .005 –0.09 0.08 –0.25 0.07 .248 0.09 0.08 –0.07 0.24 .253
精神的成長 0.12 0.06 0.01 0.23 .048 –0.26 0.07 –0.41 –0.11 .001 –0.14 0.07 –0.29 0.01 .060
身体運動 0.28 0.06 0.16 0.40 .001 –0.03 0.08 –0.19 0.12 .672 0.24 0.08 0.09 0.40 .002
人間関係 0.06 0.06 –0.06 0.19 .300 –0.11 0.08 –0.29 0.05 .165 –0.05 0.08 –0.20 0.11 .165
栄養 0.13 0.05 0.03 0.24 .012 –0.03 0.07 –0.16 0.10 .625 0.10 0.07 –0.03 0.23 .126
ストレス管理 –0.04 0.05 –0.14 0.06 .400 –0.07 0.06 –0.20 0.05 .246 –0.16 0.06 –0.24 0.01 .072
SF-8
PCS 1.7 1.6 –1.5 5.0 .293 –1.2 2.0 –5.2 2.9 .561 0.5 2.0 –3.4 4.5 .789
PF 1.6 1.9 –2.3 5.5 .412 –1.1 2.4 –6.0 3.8 .652 0.5 2.4 –4.3 5.3 .652
RP 2.9 1.7 –0.5 6.2 .096 –0.7 2.1 –5.0 3.5 .732 2.1 2.1 –2.0 6.3 .307
BP 0.7 1.0 –1.3 2.7 .495 0.2 1.3 –2.4 2.7 .895 0.8 1.2 –1.6 3.3 .495
GH 2.3 1.0 0.2 4.3 .034 –4.3 1.3 –6.9 –1.7 .002 –2.0 1.3 –4.6 0.5 .115
MCS 1.2 1.4 –1.6 4.0 .393 –2.0 1.7 –5.5 1.4 .244 –0.8 1.7 –4.2 2.6 .622
VT 0.9 1.0 –1.1 3.0 .368 –1.6 1.3 –4.1 1.0 .231 –0.6 1.3 –3.2 1.9 .626
SF 0.7 1.6 –2.6 4.0 .652 –2.8 2.0 –6.9 1.2 .168 –2.1 2.0 –6.1 1.9 .301
RE 1.6 1.1 –0.7 3.9 .158 –2.1 1.4 –4.9 0.7 .145 –0.5 1.4 –3.3 2.3 .735
MH 1.4 1.2 –1.2 3.9 .281 –1.3 1.6 –4.4 1.9 .416 0.1 1.6 –3.0 3.2 .961

a)全対象者数,b)推定周辺平均値に基づく値,c)Bonferroniの修正による多重比較

Ⅳ. 考察

本研究の対象者の年齢は全て50歳代以上であり,8割以上が65歳以上の高齢者であった.講座開始時におけるJLV-HPLP IIの下位尺度得点は全て日本語版尺度開発時の平均値を上回っていた.講座の参加者は自主的に参加を希望し集っていたことから,健康に対する関心が高く,健康づくりに向けて何らかの行動を起こそうという意思をもった集団であることが推察された.

介入の効果については,JLV-HPLP IIの総合,健康意識,精神的成長,身体運動,栄養の得点が講座開始時に比べ講座受講直後に有意に高くなっていた.下位尺度の身体運動と栄養の質問項目は,講座で企画したテーマに直接関連しており,運動習慣や食習慣を尋ねる内容であった.行動変容は,変化することが自分にとって得である判断し,自分は変化にうまく対処できるという自信を持てた場合に強化されると言われている(Glanz et al., 2002/2006).本講座は,参加者が自身の健康により高い関心を持てるよう,第1回目の演習として身体計測を実施した.これにより参加者は,健康づくりを進める上での個々の課題に気付き,運動や食事といった生活習慣を見直すことが自己の健康に利益をもたらすことを認識したと考える.また,講義と演習を組み合わせるという展開方法により,健康行動を実践することへの自己効力感が強化され行動変容への動機づけがなされたと考える.健康意識と精神的成長は,講座への参加を通して他者との交流が活性化され,相乗的に向上したのではないかと推察された.

効果の持続という点では,身体運動のみが講座終了後1か月の時点まで介入効果の持続が認められた.A市では,ヘルスプラン21における健康増進キャンペーンの一環としてウォーキングを推奨しており,本講座においても市が整備・推奨しているウォーキングコース等について情報提供を行っていた.運動習慣が講座終了後も持続していた要因の一つとして,市民にとって運動を行いやすい環境が整っていたことが寄与したのではないかと推察された.

精神的成長およびSF-8のGHは終了直後に一旦向上した得点が,1か月後には講座開始時よりも低い得点になっていた.高齢者のソーシャルサポートと心理的健康状態については,社会活動に参加する機会が多く,情緒的サポート授受のバランスが取れている場合に主観的健康感や自尊感情を高めることが示唆されている(百瀬・村山,2010三浦・上里,2006).本講座は全ての回において参加者同士が交流する機会を意図的に設けており,参加者間で手段的・情緒的サポートを授受する機会が多かったといえる.ゆえに,講座へ参加している期間は参加者の自尊感情が高まり,精神的成長や主観的健康感の向上に寄与したと推察された.講座の終了後に著しく評価が低下している要因としては,社会参加の機会が減少したこと,それに伴いソーシャルサポートを授受する機会も減少したことや居場所に対する喪失感が生じたのではないかと推察された.内閣府が実施した調査(2014)によると,自主的なグループ活動へ参加することにより,「新しい友人が得られた」「生活に充実感ができた」「健康や体力に自信がついた」という効果が得られることが明らかにされている.本講座は5週間という短期間の開催ではあったが,自主グループ活動同様の効果が得られており,参加者の健康増進にとって有効であることが示唆された.また,活動へ参加することにより得られる効果は,活動へ参加し続けることにより持続することも示唆された.本講座のような場を継続的に提供し続けることにより,市民の健康増進および健康寿命の延伸に貢献することが期待される.

最後に,本研究の限界と今後の課題を述べる.先ず,本研究は講座の短期的な効果の検証を目的としていたため,長期的効果の評価には至っていない.5週間という短期間の介入であっても効果が得られた本研究の成果を踏まえ,今後は継続的なフォローアップを行うことによる長期的な効果,健康増進への寄与について評価を行う必要がある.次に,介入効果については主観的な心理尺度のみを使用していた.今後は,介入期間をより長期に設定し,身体計測など客観的な健康指標と主観的な効果指標を併せて介入効果を検討する必要がある.さらに,本研究は受講後1か月時点で対象者の半数が脱落していた.欠測値に関しては混合モデルを用いて補完したとはいえ,受講後1か月時点での結果の解釈には限界があると言わざるを得ない.今後は,講座終了後の脱落ができるだけ回避できるようなデータ収集方法を検討していく必要がある.

Ⅴ. 結論

市民公開講座の参加者32名を対象として,講座へ参加する前後3時点においてJLV-HPLP II,SF-8を効果指標とした質問紙調査を実施した.その結果,講座開始時と比較して全講座受講直後のJLV-HPLP IIの総合,健康意識,精神的成長,身体運動,栄養およびSF-8のGHの得点が有意に向上した.これより,5週にわたる講座は,参加者の健康に対する意識や健康的な生活習慣を獲得するための行動変容に対して短期的な効果をもたらしたことが示唆された.

付記:本研究の一部は日本老年看護学会第23回学術集会において発表した.

謝辞:市民公開講座の開催に向けてご協力頂きましたA市および目白大学の職員の皆様,並びに講座に参加頂きました市民の皆様に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:NS,KN,RHは研究の着想,デザイン,データ収集と分析,結果の解釈,論文の執筆;KF,YO,YI,KO,MY はデザイン,データ収集,結果の解釈および論文の記述に対する助言;TTは原稿への示唆,研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.

文献
 
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